■仕様から読み解く理想アンプ
差分法でアンプの入力信号と出力信号を比較し、その差成分が-40dB以下ならばそのアンプは理想アンプと言えることを示しました。
しかし、全てのアンプを実際に測定するのは現実的ではありません。特にオーディオでは非常識に高額なアンプが多数存在しています。
そこで、アンプは必ず仕様が明らかにされているので、その値から理想か理想でないかを判断できないかを考えます。
理想アンプの判定は、周波数偏差<0.09dB、位相偏差<0.6度、ひずみ率<1%で、各値は相互に関係します。
最終確認は音楽信号を使い差分法で差分信号を求める必要がありますが、今までの実験結果より正弦波による測定(仕様)と
音楽信号による測定(差分法)で、結果は非常に良く一致しているので仕様だけ見れば理想アンプかどうか判断できます。
それでは項目ごとに見ていきましょう。参考にしたのは理想アンプと分かっているデノン
PMA390の仕様です。
●定格出力
自分の使用するスピーカのインピーダンス、能率、部屋の大きさ、音楽を聴く時の音量などで必要な出力は決まります。
その出力に余裕を加えアンプの定格出力を決めれば良いでしょう。
ただし、むやみに大きな定格出力のアンプは何らかのミスで大きな出力が発生した場合
スピーカにダメージを与える可能性があるので避けた方がいいと思います。
またディジタル時代になり突発的なプレーヤ出力0dB以上の過出力は考えなくて済んでいます。
●全高調波歪率
トランジスタアンプはNFBが大きくかかっているので問題となるような高調波ひずみは発生しません。
使用する出力時のひずみが0.1%以下であれば問題ないでしょう。
●混変調歪率
トランジスタアンプは全高調波歪率同様混変調歪率も小さいので、使用する出力時のひずみが0.1%以下であれば問題ないでしょう。
ただし、この混変調ひずみ率は仕様に載っていない場合もあります。
●周波数特性
実は忠実度を決定する唯一の主要要因と言えるほど重要です。周波数特性が変わるということは位相特性も変わるので忠実度にダブルで影響します。
人間の聴力でこの周波数偏差をどのくらい聴き分けできるかの客観的な実験データがあるので次図に示します。
赤点はアンプ、プレーヤ、ケーブルなどの標準的な周波数偏差です。これらの値は専門家の検知限よりはるかに小さい値と言えます。
なお、忠実度を求める場合、周波数偏差は0.09dB以内にしなければならないので、必要であればその周波数特性を補正する必要があります。
デジアンは出力回路にクロックを減衰するためにLPFが付いています。この悪影響でスピーカ負荷の場合
大きく周波数特性が変化します。理想アンプとは言えないでしょう。
●出力インピーダンス、DF(ダンピング・ファクタ)
昔からDFは10以上あれば音の違いは分からないと言われて来ました。DFが影響するのは周波数特性です。
8Ωなどの固定抵抗負荷の測定では、単にアッテネータとなるので、利得補正で十分です。
スピーカの場合、インピーダンスが周波数で異なるので、周波数特性はうねりを持つようになります。
したがって、出力インピーダンスが大きい場合その影響は大きいので、補正などが必要です。
真空管アンプの場合出力トランスの影響で出力インピーダンスは大きく特にスピーカ負荷ではその影響が顕著です。
●トーンバースト(可聴域)測定
仕様書にはこの項目が無いのが一般的です。しかし測定してみると波形が乱れる、変化するアンプもあります。
トーンバースト信号は無限の周波数成分を持つので、そのまま測定に使うと波形の乱れが顕著になるのは当たり前ですが、
可聴域に限定しても無視できないほど波形が乱れるアンプも存在します。
当然、波形の乱れ方が大きいと理想アンプとは言えませんが、波形上大きく乱れるアンプと理想アンプで
両者の音の違いが分からなかったというABX結果だったので、聴感上の影響は少ないのかもしれません。
しかしながら、仕様には出ないデータなので、もし仕様で違いがなくABXで違いがあった場合この測定をしてみるべきです。
以下は差分法、仕様の両方で確認できた理想アンプです。
デノン PMA-390、PMA7.5
マランツ PM4001
ヤマハ AX-590
テクニクス SU-V40
SONY STR-DH530
自作 LM3886